紅茶の香り成分『ホトリエノール』がひとの眠りに与える影響について 紅茶の香り成分『ホトリエノール』がひとの眠りに与える影響について

紅茶の香り成分のホトリエノールが睡眠を改善する

紅茶のなかでも、ダージリン紅茶は、とりわけ香り成分が多く、華やかな果実香を特徴とする人気の高い紅茶です。三井農林は、ダージリン紅茶の香りの“交感神経系”を抑えて“副交感神経系”を高める鎮静効果に注目し、鎮静効果に関与する成分のひとつがホトリエノールであることを見出しました。
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ダージリン紅茶の香りを嗅ぐことで眠りを改善することもわかってきたことから、ホトリエノールにも同様の睡眠改善効果が期待されました。そこで、①眠りにつくときにホトリエノールの香りを嗅ぐこと ②ホトリエノールを経口摂取することが、ひとの睡眠にどのような影響を与えるのか?について、筑波大学矢田幸博教授の研究指導のもと、臨床研究で明らかにしました。
ここでは、その研究結果の一部についてご紹介します。

アロマディフューザーの香りと安眠している女性のイラスト

ホトリエノールとは?

ホトリエノールはフローラルフルーティー調の香気を有し、ダージリン・セカンドフラッシュ特有の華やかで芳醇なマスカテルフレーバーに 寄与する香気成分です。台湾の烏龍茶である東方美人茶の蜜香に寄与する香気成分ともいわれています。
ダージリン・セ カンドフラッシュや東方美人茶の生葉には、ホトリエノールの前駆物質である(3E)-2,6-ジメチルオクタ-3,7-ジエン-2,6-ジオールが多く含まれますが、製茶工程の加熱処理における前駆物質の脱水反応によってホトリエノールが生成すると報告されています。この前駆物質は、生葉がチャノミドリヒメヨコバイによる食害ストレスを受けることで増加します。
ダージリン・セカンドフラッシュでは収穫時期の5月下旬頃、東方美人茶では5月上・中旬にチャノミドリヒメヨコバイが多く発生し、食害を受けた茶葉ほどマスカット様、リンゴ様の果実フレーバーが強くなるといわれています。

眠るときにホトリエノールを嗅ぐことで睡眠の質が改善する

眠るときにホトリエノールの香りを嗅ぐことによって、ふとんに入ってから眠りにつくまでの時間の短縮、総睡眠時間の延長、睡眠効率が向上することがわかりました。
また、起きたときの眠気のなさ、寝つきやすさや睡眠維持、夢みのよさ、疲労回復、総合的な睡眠の質が向上するなどの主観的な睡眠意識の改善が認められました。

<詳細データ>

ホトリエノールと水で主観的な睡眠意識を比較した結果のグラフ ホトリエノールと水で主観的な睡眠意識を比較した結果のグラフ
図 ホトリエノールと水で主観的な睡眠意識を比較した結果
(上:ピッツバーグ総合スコアの試験期前後変化量、下:OSA 因子スコアの試験期前後変化量)
(N = 20, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)
ホトリエノールと水で睡眠変数を比較した結果のグラフ ホトリエノールと水で睡眠変数を比較した結果のグラフ ホトリエノールと水で睡眠変数を比較した結果のグラフ
図 ホトリエノールと水で睡眠変数を比較した結果
(左から、ふとんに入ってから眠りにつくまでの時間、目が覚めてからふとんを出るまでの時間、睡眠効率、総睡眠時間)
(N = 20, *P < 0.05)

<詳細データの説明>

就寝時にホトリエノールまたは水(プラセボ)を超音波式アロマディフューザーで揮散させて睡眠に及ぼす効果を比較したところ、水に比べてホトリエノールでは、睡眠変数の入眠潜時の有意な短縮、睡眠効率の有意な上昇、総睡眠時間の有意な延長が認められました。
ホトリエノールでは、ピッツバーグ総合得点が有意に低下したことから睡眠の質の改善が示唆され、さらには、起床時の眠気のなさ、入眠のしやすさと睡眠維持、夢みのよさ、疲労回復感も有意に上昇したことから、主観的な睡眠感も改善することが確認されました。

<試験概要>

試験デザイン:クロスオーバー試験
対象者:健常女性 20 名(平均年齢 37.4±4.3 歳)、軽度ストレス(ストレススコア:6~10 点)があり、睡眠が良くない (入眠に 30 分以上かかる、中途覚醒がある、起床時の眠気が強い、疲労感が取れていない)と自覚していること、週 4 日以 上の日中の時間帯で 1 日 3.5 時間以上働いている勤労者を選択した。
試験品:ホトリエノールまたは水(プラセボ)
評価方法:対象者の自宅寝室にて、就寝時の就寝前後 3 時間に超音波式アロマディフューザーを用いて試験品の香りを揮 散させた。各期の前後にストレスチェックリスト 30 項目(ストレススコア:主観的なストレス)、OSA 睡眠調査票 MA 版(OSA 因子スコア:主観的な睡眠感)、ピッツバーグ睡眠質問票(ピッツバーグ総合スコア:睡眠の質)に回答し、各期 1 週間の睡 眠時の活動量から睡眠変数を算出して評価した。

※評価方法
ストレスチェックリスト 30 項目(SCL30):ストレスに関する 30 項目に回答し、0 点から 30 点までのストレススコアが高いほ ど、主観的なストレスが高いと評価する。
ピッツバーグ睡眠質問票:過去 1 カ月間における睡眠習慣や睡眠の質(主観的睡眠の質、入眠時間、睡眠時間、有効睡眠時間、睡眠障害、睡眠剤の使用、日常生活における障害)に関する 18 質問に回答し、算出した 0 点から 21 点までの総合スコアが高いほど、睡眠の質がより悪いと評価する。
OSA 睡眠調査票 MA 版:起床時の睡眠感と覚醒状態に関する 19 質問に回答し、算出した 5 つの因子スコア(起床時眠気、入眠と睡眠維持、夢み、疲労回復、睡眠時間)50 点を基準として、スコアが高いほど、主観的な睡眠感が良好であると評価する。
活動量:活動量計を腹部正面に装着し、計測データから求めた睡眠変数(入眠潜時:ふとんに入ってから眠りにつくまでの時間、離床潜時:目が覚めてからふとんを出るまでの時間、総睡眠時間:入眠時刻から最終覚醒時刻までの時間から中途覚醒時間を除した時間、睡眠効率:総睡眠時間を総就床時間で除した値、中途覚醒時間および回数、姿勢変更回数)を評価

出典:ダージリン紅茶セカンドフラッシュに特徴的な香気成分ホトリエノールが睡眠に及ぼす効果、においかおり環境学会誌、54(1)28-36(2023)

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ホトリエノールを経口摂取することで睡眠の質が改善する

サプリメントを飲んでいる女性のイラスト

ホトリエノール含有タブレット食品を経口摂取することによって、ふとんに入ってから眠りにつくまでの時間、目が覚めてからふとんを出るまでの時間、中途覚醒時間が短縮し、さらに睡眠効率が向上することがわかりました。また、寝つきやすさや睡眠維持、総合的な睡眠の質が向上するなどの主観的な睡眠意識の改善が認められました。

<詳細データ>

ホトリエノールタブレットとプラセボタブレットで主観的な睡眠意識を比較した結果のグラフ ホトリエノールタブレットとプラセボタブレットで主観的な睡眠意識を比較した結果のグラフ
図 ホトリエノールタブレットとプラセボタブレットで主観的な睡眠意識を比較した結果
(上:ピッツバーグ総合スコアの試験期前後変化量、下:OSA 因子スコアの試験期前後変化量)
(N = 33, *P < 0.05)
ホトリエノールタブレットとプラセボタブレットで睡眠変数を比較した結果のグラフ ホトリエノールタブレットとプラセボタブレットで睡眠変数を比較した結果のグラフ ホトリエノールタブレットとプラセボタブレットで睡眠変数を比較した結果のグラフ
図 ホトリエノールタブレットとプラセボタブレットで睡眠変数を比較した結果
(左から、ふとんに入ってから眠りにつくまでの時間、目が覚めてからふとんを出るまでの時間、睡眠効率、中途覚醒時間)
(N = 33, *P < 0.05, ***P < 0.001)

<詳細データの説明>

ホトリエノールを含むタブレット食品(ホトリエノールタブレット)とプラセボタブレットの経口摂取による睡眠に及ぼす効果を比較したところ、プラセボタブレットに比べてホトリエノールタブレットでは、睡眠変数の入眠潜時、離床潜時および中途覚醒時間の有意な短縮、睡眠効率の有意な上昇、中途覚醒回数の減少傾向が認められました。さらに、ホトリエノールタブレットでは、ピッツバーグ総合得点が有意に低下したことから睡眠の質の改善が示唆され、さらには、入眠のしやすさと睡眠維持が有意に上昇したことから、主観的な睡眠感も改善することが確認されました。

<試験概要>

ランダム化プラセボ対照二重盲検クロスオーバー比較試験
対象者:健常男女 33 名(平均年齢 39.5±4.0 歳)、軽度ストレス(ストレススコア:6~10 点)があり、睡眠が良くない (入眠に 30 分以上かかる、中途覚醒がある、起床時の眠気が強い、疲労感が取れていない)と自覚していること、週 4 日以 上の日中の時間帯で 1 日 3.5 時間以上働いている勤労者を選択した。
試験品:ホトリエノールタブレット(被験食品)またはプラセボタブレット(対照食品)
評価方法:対象者は、第I期および第II期試験期間 2 週間は、毎日、毎食後および就寝前の 4 回、1 回につき 1 個の試 験品を口内で噛まずに溶かして摂取した。各期の前後にストレスチェックリスト 30 項目(ストレススコア:主観的なストレス)、 OSA 睡眠調査票 MA 版(OSA 因子スコア:主観的な睡眠感)、ピッツバーグ睡眠質問票(ピッツバーグ総合スコア:睡眠 の質)に回答し、各期 2 週間の睡眠時の活動量から睡眠変数を算出して評価した。

出典:ホトリエノールの経口摂取がストレス意識および睡眠に及ぼす影響 ―ランダム化プラセボ対照二重盲検クロスオーバー比 較試験―、薬理と治療、50(9)1709-1716(2022)

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研究指導者より

矢田幸博教授の写真

筑波大学大学院人間総合科学学術院
グローバル教育院
ヒューマンバイオロジー学位プログラム
矢田幸博 教授 注)組織名、役職等は掲載当時のものです(2023年2月)

ダージリン・セカンドフラッシュ(ダージリン産の 2 番茶)の香りが、自律神経のうち、交感神経を抑えて副交感神経を高めることでストレスを緩和し、睡眠改善効果を有することが認められました。そこで、本茶葉の香りの中には、これらの効果を司るある種の成分が含まれていることが考えられました。

そこで、いくつかの紅茶葉の香りを分析したところ、 ダージリン紅茶にホトリエノールという特徴的な成分が多く含まれていることがわかりました。
この成分は、ダージリン紅茶と同様に交感神経を抑えて、ストレスを緩 和する効果が認められています。そこで、ダージリン紅茶と同様にホトリエノールの 睡眠改善効果を調べたところ、本成分がダージリン紅茶の香りの生理的な効果を発 揮する重要な成分であることが明らかとなりました。

香りとしての活用にとどまらず、機能性食品などヘルスケア関連への応用展開を広げることでさらに多くの方の悩み改善につなげられる可能性がありますので、今後に期待したいですね。