お茶の健康パワー

抗インフルエンザウイルス作用

毎年、冬に猛威を振るうインフルエンザ。その予防には、うがいやマスクの着用、手洗いが有効とされています。医薬品や医薬部外品としてうがい薬が市販されていますが、実は、私たちの身近にある紅茶にもインフルエンザウイルスの感染力を奪う効果があることが実験的に明らかにされています。ここでは紅茶の抗インフルエンザウイルス効果について、私たちの実験結果をご紹介します。

インフルエンザウイルスとは

インフルエンザウイルスはヒトに感染してインフルエンザを起こすウイルスで、A型、B型そしてC型の三種類に分類されています。流行を起こすのはA型とB型で、C型は軽い風邪のような症状を示します。B型とC型はヒトだけに感染するのに対し、A型は人畜共通に感染して大規模な流行をもたらします(鳥インフルエンザもA型インフルエンザウイルスによるもの)。
インフルエンザウイルスは直径が1万分の1 mm程度の球形で、遺伝子(RNA)がエンベロープという脂質に覆われた構造をしています(図1)。表面には2種類のスパイクタンパク質(ヘマグルチニン:HAとノイラミニダーゼ:NA)があり、感染するとき(HA)、増殖したウイルスを放出するとき(NA)に重要な役割を果たしています。M1タンパク質は殻の役割、M2タンパク質は脱殻に重要な役割を果たしています。

図1. インフルエンザウイルスの構造
図1. インフルエンザウイルスの構造

紅茶の抗インフルエンザウイルス作用

A型インフルエンザウイルスを市販の紅茶を淹れた紅茶抽出液と混ぜた後、イヌの腎臓由来細胞(MDCK細胞)に感染させて、プラークアッセイ法で感染力を評価しました(図2)。その結果、通常の紅茶の飲用濃度においては約200個のウイルスを5秒で不活化することができました(図3)1) 。5分間接触させた場合は、通常飲用濃度の約50倍に薄めたもので同様の効果が確認されました。

図2. プラークアッセイ法
図2. プラークアッセイ法

 

図3. 紅茶のインフルエンザウイルス不活化能
図3. 紅茶のインフルエンザウイルス不活化能
(注)試験では通常飲用濃度の4倍に濃縮した紅茶エキスを使用しています。

通常飲用濃度の紅茶抽出液とインフルエンザウイルスを混合し、マウスの鼻腔内へ吸入させたところ、体重の減少は認められず、すべてのマウスの生残が確認されています。一方、インフルエンザウイルスのみを吸入させたマウスでは、体重は減少し、10日以内に致死しました。なお、鼻腔内吸入による紅茶の毒性は認められていません1)
この効果は、紅茶に多く含まれるテアフラビンやカテキンなどのポリフェノールが、ウイルス表面のスパイクタンパク質に結合して、ウイルスが細胞と結合できなくなり、感染力を奪うためです1-3)
なお、タンパク質を多く含むミルクティーでは感染防止効果が激減してしまいます。これは紅茶ポリフェノールがウイルスのスパイクよりも先に乳タンパク質と結合してしまうからです。一方、レモンティーでは効果が強まることが知られています。

紅茶エキスのうがいによるインフルエンザ予防効果

平成4年10月18日から平成5年3月17日の期間、297人の同一職場域の社会人を対象に紅茶エキス(通常の飲用濃度、無糖)を用いたうがいによるインフルエンザ予防効果を調査しました。その結果、紅茶エキスでうがいをした群での感染率35.1%に対して何もしなかった群では48.8%で、統計学的にも有意な差が認められています(表1)4)

  対象者
(人)
A型感染者
(人)
B型感染者
(人)
両型感染者
(人)
感染者数(人)
と感染率(%)
表1. インフルエンザ感染率
何もしなかった群 125 45 24 8 61(48.8%)
紅茶エキスで
うがいをした群
134 35 16 4 47(35.1%)

また、7種類の市販されているうがい薬と通常飲用濃度の紅茶抽出液を用いたMDCK細胞に対するインフルエンザウイルス感染阻止試験では、紅茶の感染阻止効果がうがい薬と比較して非常に高いことが示されています5) 。細胞毒性のない紅茶によるうがいがインフルエンザ感染の予防に優れていることが示唆されています。

最近では、緑茶うがいによるインフルエンザ予防に関する疫学的な調査が進んでいます。約800人の高校生を対象に緑茶または水を用いたうがいの効果を調査したところ、緑茶によるうがいの方が効果はありそうですが、統計学的には水によるうがいと有意な差は認められなかったとのことです6) 。今後、規模を拡大した試験が検討されているそうですが、効果を裏付けるよい結果が期待されます。

【参考文献】
1) 中山幹男ら, 感染症学会誌, 1994;68(7):824-829.
2) Nakayama, M., et al., Lett. Appl. Microbiol., 1990;11(1):38-40.
3) Nakayama, M., et al., Antiviral Res., 1993;21(4):289-299.
4) 岩田雅史ら, 感染症学会誌, 1997;71(6):487-494.
5) 岩田雅史ら, 感染症学会誌,1997;71(11):1175-1177.
6) Ide, K., et al., Plos One, 2014 May 16;9(5):e96373.16.